
ストーリー

ご挨拶
こんにちは。一般社団法人TOKYO PLAY代表理事の嶋村仁志です。
私たちは2010年に「すべての子どもが豊かに遊べる東京を」というメッセージを掲げ、市民活動の伴走から政策提言、人材育成、キャンペーンに至るまで、子どもの遊びにやさしい社会が実現するよう、市民・行政・企業・研究者・実践者のみなさんと様々な取り組みを進めてきました。
そして今年、2016年の法人化から10年という節目を迎えました。これまでお世話になったみなさんへの感謝とともに、子どもが豊かに遊び育つ社会へと歩みを進めるため、クラウドファンディングという形でお願いをすることにしました。
遊ぶというのは、自分の心の内側から生まれる本能的な興味に従って、やりたいことを主体的にやってみることです。例えば、ドッジボールは「遊び」だということは、誰もが疑わないでしょう。けれども、ボールを扱うのが苦手な子にとっては、ドッジボールはその子の「遊ぶ」になっていないのではないでしょうか。そんなふうに動詞で考えてみると、大人から見ると無駄なことでも、その子自身がやりたいことに没頭していれば、何でもその子の「遊ぶ」になります。木登りでも、ノートの端っこに描くパラパラ漫画でも、ぼうっと空を眺めることでも、何でもいいんです。それは、子どもにとって「自分はこれでいいんだ」と肯定する原点でもあり、自分のアイデンティティにもなっていきます。
その一方で、「危ないからダメ!」「子どもの声がうるさい」「立ち入り禁止」「習い事があるからダメ」という制約が重なって、遊べる時間も場所も仲間も減っています。電子ゲームだけで遊ぶ子も増え、育つ環境が狭まり、多様性が失われつつあります。
このページは、この10年でTOKYO PLAYに関わりのあった方々だけでなく、「子どもの遊び」と聞いて「大事だとは思うけれど、自分に何ができるかわからない」と感じている方にも読んでいただけたらうれしいです。

子どもの「遊ぶ権利」とは
TOKYO PLAYは、遊ぶことを、子どもが人として生きていくために大切な「いのちのしくみ」だと考えてきました。
子どもは遊ぶことで、自ら「からだ・こころ・人間関係」を育て、整えていきます。本来、子どもはいつでも、どこでも遊びます。そうしてあらゆるものに触れ、出会い、安心と挑戦をくり返しながら育っていきます。主体性や自己決定、利他的な行動、リスクへの向き合い方、レジリエンス。大人になってからも大切な力の多くは、豊かに遊べる環境があることで、家庭の経済状況にかかわらず、すべての子どもの中に育まれていきます。
だからこそ、国連子どもの権利条約第31条は、遊ぶことを子どもの権利として定めています。
「遊ぶ環境の貧困化」── 今、起きていること
実は多くの大人は、「子どもは放っておけば遊ぶんだから、大人は何もしなくてもいいんじゃない?」と思っているかもしれません。
日本の公園は115,000か所、児童館は4,200か所、任天堂Switchの国内販売台数は3,830万台。今の子どもたちは、場所にも遊ぶ道具にも困っていないように見えるかもしれません。
ところが、実際には、子どもが遊ぶ環境は全体として縮小し、多様性も失われ厳しさを増しています。
実際に遊び場でも、
「あと17分しか遊べない」
「これって、何分でできる?」
「今度、10個あった習い事がやっと8個に減るんだよ」
「公園ができるの?じゃあ、(禁止事項だらけになって)今までみたいに(自由に)遊べなくなるね」
「前は高架下の広場で野球ができたのに、うるさいって怒鳴るおじさんがいて、もう遊びに行けない」
「夏休みは、塾で400時間勉強することになってるんだ」
といった切迫感のある様々な声を幾度となく聴いてきました。
放課後に友達と遊ぶ頻度が「週1回以下」の小学生は、69.9%。東京23区でボール遊びを規制している公園は、約8割。学校の校庭を使う放課後児童クラブでは、「校庭の隅っこに行ってはいけない」「ジャングルジムは2段目まで」などのルールも各地で存在しています。その一方で、小学校高学年のインターネットの1日の平均利用時間は、4時間近くになっています。
私たちはこれを、「子どもが遊ぶ環境の貧困化」と呼んでいます。ここでいう「貧困」は、お金の話ではありません。どの家庭に生まれても、子どもが当たり前に持っていたはずの「遊ぶ時間・空間・仲間」が、社会全体で減りっていることを指しています。
また、子どものウェルビーイングを示す「からだ・こころ・人間関係」の指標も、年々悪化しています。2025年、自ら命を絶った小中高生は538人。統計のある1980年以降で最多を、2年連続で更新しています。いじめの認知件数は、769,000件。視力1.0未満の小学生は36.0%で1979年との比較で2倍となっています。

「遊ぶ権利」は、国連子どもの権利条約で定められた基本的人権です。けれど日本には、その実現を国や自治体に義務づける制度がありません。
もちろん、子どもが遊べるようにと、各地で多くの人たちが様々な施設や活動で努力を積み重ねていますが、「子どもが遊ぶ環境の貧困化」は、もう家庭や草の根の努力では解決できないレベルになってきています。そして、子どもたちの育ちへの影響を考えると、公衆衛生の重要な課題として、国や自治体が扱う必要のある問題になってきています。
制度を変えることで、子どもが育つ環境は変えることができる
「子どもが遊べなくなっていくのは、時代の変化なんだから仕方ないんじゃない?」という声もあるかもしれません。ただ、海外には、子どもが遊ぶ環境の整備を国や自治体の制度として位置づけ、取り組みを進めている国があります。
英国ウェールズでは、遊ぶ権利の保障が子どもの育ちに加えて、家族支援、地域社会の強化、社会的排除の解消に役立つとして、2006年に世界で初めて「遊びに関する政府戦略」を定めました、2010年には法律で、子どもが遊ぶ環境のアセスメントと改善計画を世界で初めて制度化し、全自治体の義務と位置づけました。その結果として、ほぼ毎日〜週に数日以上外で遊ぶ子どもたちは日本とは対照的に7割を超え、学校の休み時間が充実したことによる子どもたちの満足度は8割にも上っています。自治体の取り組みは新しい公園をつくるといった単純なものでなく、交通量の多い道路の向こうにある公園にアクセスするための道路が新設されるなど、教育や都市計画も巻き込む形で広がっています。
台湾では、1日120分の屋外活動を進める施策を取り、悪化を続けていた小学生の視力を改善に転じさせました。
では、私たちはこの課題に、どう向き合ってきたのか。まずは、この10年の歩みをお伝えします。









