
そばの実には、大きさの違いがあります。
長野県木曽郡・開田高原の在来種「開田早生」はもともと小粒な品種ですが、その中からさらに小さな“4ミリ以下”だけを選び抜く栽培に、地元のNPO法人「山ろくファームきそ」と製麺メーカー「霧しな」の2者で、3年前から挑んできました。
今年、ようやく一般のお客様にお届けできる量が実る見込であり、「4ミリ以下の開田早生」だけを100%使用した生そば・乾麺は、今回が初めての商品化・一般流通です。
2026年収穫分についてはオンラインストアや店頭での販売も予定しておらず、クラウドファンディングご支援者様限定でのご提供となります。
開田高原のそば畑と景観を未来へ繋ぐため、生み出されたこの1杯。その味の源泉は「実が小さいこと」にあります。
なぜ、私たち多くの手間と時間をかけて、小さな実だけを選ぶのか。まずはその理由からご紹介します。
小さな実に、味が凝縮される理由。
そばの実は「小さいほど美味しい」
――そう言われる理由を、そば研究に長年取り組まれている信州大学名誉教授・井上直人先生の分析データから紐解きます。ポイントは大きく3つです。
|
①実の中に閉じ込められた、香りの正体
そばの風味や香ばしさを決めるのは、実に含まれる脂質やタンパク質です。収量を重視した結果として大粒に移行してデンプン量が増えたのに対し、極小粒の在来種は脂質やタンパク質の含有比率が高いことが分析でわかっています。
大粒種はデンプンが多く、お腹を満たす「量」を重視した構造である一方、極小粒は体積が小さいぶん、風味のベースとなる油分がぎゅっと凝縮されているのが特徴です。口に入れた瞬間の香り立ちも、噛むほどに広がるコクも、この脂質の濃さに由来すると考えられています。
②小さな粒ほど、胚芽の割合が多い
そばの実で最も味と香りが強いのは、種子の中心にある「胚芽(発芽後に双葉や茎になる部分)」。サイズが小さくなるほど、実の体積に対する胚芽の割合は大きくなります。4ミリ以下の実(写真左)は、この胚芽を多く含む計算になります。
これは球体や多面体に共通する物理的な法則で、サイズが小さくなるほど、体積に対して表面積の割合が大きくなるためです。つまり、同じ量のそばの実を並べたとき、4ミリ以下の極小粒は大粒種に比べて「美味しい種皮や胚芽」をより多く含んでいることになります。
一般的に「甘皮」と呼ばれる部分は、種皮(そば殻のすぐ内側にある薄い膜組織)を指しますが、これは製粉業者などの俗称です。植物学的には、粉砕されにくく脂質の多い胚芽と種皮のこと。甘皮の色が緑だと良いとよく言われますが、それは丸抜きにした時に見えやすいからで、量的に多いのは種皮ではなく、中心部の胚芽です。種皮は疎水性の脂質が多く、胚芽には親水性の糖脂質とリン脂質が多いため、胚芽が多いと水に馴染みやすく、製麺もしやすくなります。
③ 寒さが生む、天然の甘さ
そばは早く霜に合うと十分なデンプンを蓄積できず、その結果として風味が高まります。また、脱粒しやすい在来種は早めに収穫するため、その点でもデンプンの蓄積が不十分になります。さらに火山灰土壌の畑は、栄養不足によって秋に早く葉が落ちるため、これもデンプン蓄積が不十分になる要因です。
このように、開田早生の高い風味は、種子の遺伝的なサイズだけによるものではありません。次の4つが重なり合うこと、すなわち「風土」によって生まれています。
| A 種子の遺伝的サイズ | B 気象 |
| C 土壌 | D 脱粒性が強い昔の品種特性 |
極小粒の実は、いわば厳しい寒さの中で生き抜くために自ら糖度を高めた、天然の力そのもの。効率化の波に取り残されながらも、この土地で生き残ってきた在来種だからこそ持つ、野性の生命力とも言えます。









