価値ある文化財を救い出す。
伝土佐光孚(とさみつざね)筆
「源氏物語図屏風」(江戸時代 19世紀)
2024年11月某日、
東京国立博物館の学芸研究部登録室の髙林尚史のもとへ、ひとつの報せが入ってきました。
ーー 東京都内の一軒の古民家で、一双の屏風が見つかった。
ーー しかし、家はすでに取り壊しが決まっていて、その屏風もこのままでは破棄されてしまう可能性が高い。
髙林から連絡を受けた、東京国立博物館の絵画・彫刻室研究員の土屋貴裕と、保存修復室研究員の大橋美織が現地に向かいました。
調査ののち、屏風を運び出す際の記録映像
屏風を実見し調査した結果、江戸時代後期の宮廷絵師土佐光孚の墨書きが見られ、画題は『源氏物語』であるということがわかりました。
繊細な筆致で、かの有名な『源氏物語』の名場面を描いた「源氏物語図屏風」。まちがいなく後世に伝えるべき貴重な文化財です。
しかし、保存状態は危機的でした。屏風の各パネルをつなぐ蝶番は壊れ、画面の絵の具は剥落(はくらく)が多く確認され、さらに、猫の仕業と思われる引っ掻き傷や虫食いも見つかりました。
この貴重な作品を未来に残していくためには、大規模な修理が不可欠です。
屏風の状況確認の様子
東京国立博物館 私たちの使命
東京国立博物館は、膨大な数の文化財を収蔵しており、機会があれば、新たな作品の収集も行っています。それらすべての作品の修理や維持・管理には莫大な費用がかかり、その支出額は、守るべき文化財が増えるほどに膨らむばかりです。
もちろん、その費用の多くは、国からの運営費交付金によって支えられていますが、それですべてをまかなえるわけではありません。限りある予算の中で、行き場のない作品をすべて引き取る訳にもいかないため、受け入れるべき、または、受け入れることのできる文化財を厳しく取捨選択せざるをえないのが現実です。
屏風の持ち主だったご夫婦は、東博研究員 土屋に語りました。
「昔からこの家にあった屏風で、由来はわかりませんが、色彩豊かで華やかで、登場人物の描写も面白い作品です。この度、土屋さんに見ていただいて、歴史的にも価値があるものだと知り、とても嬉しく思いました。家は取り壊しになりますが、この作品は残したい。東博さんがこれを未来まで残してくださるなら、喜んで寄贈いたします。」
価値はあるけれども、まだ「国宝」「重要文化財」といった国の指定を受けていない作品は、後回しにされやすいものです。ただ、できることならばそんな作品も、しっかりと修理して、未来に残していきたい。それが、私たちの切なる想いです。
このプロジェクトでは、作品の修理の過程を可能な限り公開し、文化財の修理とはどういうものなのか、実際に目で見て知っていただくことも目的としたいと考えています。
文化財を守り伝えていくためには、どんな作業や過程が必要なのか。
みなさまと一緒にプロジェクトを進めていくことで、貴重な作品群の収集から展示に至るまでの舞台裏について、理解を深めていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
東博が新たに踏み出す挑戦に、
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