沖縄の島々を巡り、人々の暮らし、文化を撮影し続けてきた南方写真師・垂見健吾。約40年にわたり、沖縄を記録してきた写真を約500頁の写真集にします。垂見健吾の沖縄写真人生の集大成であり、文化の記録としても貴重な一冊です。
はいさい! “タルケンおじぃ” 垂見健吾です。
はいさい! ぐすーよ、ちゅーうがなびら(みなさん、こんにちは)、沖縄で、写真とぅやー(写真屋)をやっている “タルケンおじぃ” 垂見健吾です。
沖縄で写真を撮りはじめてから、やがて40年になります。
初めて沖縄に来たのは復帰直後の1973年の2月。その時はポスターの撮影でした。2月の沖縄は雨が多く、全然晴れなくてね、ようやく晴れた最終日にウージ(さとうきび)畑でモデルさんを撮影した、それが初めての沖縄でした。
そこからぽつぽつと沖縄に通うようになりましたが、深く沖縄と関わるようになったのは、1982年に文藝春秋が創刊した雑誌「くりま」の沖縄特集での撮影がきっかけです。僕はその頃、文藝春秋写真部に所属していて、この特集班の牧志公設市場の担当となり、10日間以上毎日市場に通いながら、少しずつ、市場の人たちの写真を撮らせてもらいました。
こうやって沖縄の人たちと出会い思ったのは、本当に沖縄の人々の顔が魅力的だということ。おおらかで生命力を湛える彼らのその顔立ちは、そのまま島の人の人間性の特長にも思えて、ああ、彼らは、いままで僕が暮らしていた内地の人の顔とはぜんぜん違うんだなぁと思ったんですね。
それから沖縄の人を撮り始め、そして、沖縄の風景を撮り始めました。少しずつ友達も増えてきて、どんどん沖縄に惹かれていって、最初の方は、沖縄の言葉でいう「いちむるやぁ」(行ったり来たり)しながら、そのうち沖縄に移住して、気がつけば約40年、僕は沖縄の写真を撮り続けています。
沖縄への感謝を込めて、
40年間撮り続けた沖縄の写真を一冊の写真集に。
写真:垂見健吾
日本の中では、沖縄ほど、数多くの写真家に撮影されてきた島はないんじゃないのかなと思うくらい、今も昔も、他の土地に比べたらそうそうたる写真家が沖縄を訪れ、写真を残しているんですね。そういう中で、僕もわりと早い時期に沖縄に来て、沖縄を撮り始めたのかもしれないなと、今、74歳になって、この40年を振り返ってそう思うんです。はい。
以前、友人のうちな〜んちゅ(沖縄の人)のカメラマンにこう言われたことがあります。「そうか、垂見みたいな撮り方があったんだね」と。
その時、ハッとしたんですよ。「慶良間見ぃしが、睫毛見ぃらん(慶良間島は遠くだから見えるけれど、自分のまつ毛は見えない)」という沖縄の言葉がありますが、自分のことは見えにくい。そう考えると、僕のように、外から来た人間だから撮れたものもあったのかなぁと思います。
しばらくして沖縄に移住してからは、今度は沖縄が「今、自分が暮らしている地元だ」という想いで、内側から沖縄のことをより見るようになりました。そうするとね、さらに沖縄の良さにどんどん気づいていくんですよ。「いつも沖縄は海が青くて美しいと思っているかもしれないけれど、それは決して当たり前ではなくて、すごいことなんだよ」と、僕は写真を通して、褒め讃えたいと思ったんですね。だって、実際、沖縄の風景は、沖縄の人々は、本当に、本当に、美しいのだから。
それに、沖縄には450年続いた琉球王朝という歴史があって、他の県とは歴史も文化も言葉も違いました。それが今も暮らしの中に息づいていると思うんですね。そのことの素晴らしさを撮り続けたいと思ったんです。その気持ちは今でも変わりません。そして今も沖縄を撮りながら、ああ、僕は本当にいいところに来たんだなあ、と、いつもいつも、沖縄に感謝するんです。