タイの観光業で酷使される使役象の保護を通して、「いのちのつながり」を次世代に伝えようとする女性動物保護活動家とZ世代の弟子の奮闘物語。もし声を発することができたら動物や自然は今、人間に何を語りかけてくるでしょうか。
左から佐保美恵子、主人公のレック・チャイラート、奥野安彦、奥野光と映画に登場する象たち。背景の象たちはかつて人間に搾取されてきたが、今はレックの保護施設で自由に暮らしている。
日本の方々に見てほしい象と人の物語「声なきものたち/Unspoken Souls」
人間に見捨てられた犬猫の保護活動がメディアで取り上げられ、近年は日本でも動物保護への関心が高まり始めています。私たちが20年暮らすタイでは犬猫に加えて、地上最大の動物で国のシンボルでもある象、とくに観光業で酷使される象の虐待が10年以上前から欧米を中心に国際的な議論を呼んできました。
日本人観光客の中にはタイで象乗りやショーを楽しむ人もいますが、象を絶対服従させるために実は観光の舞台裏で子象に虐待的訓練が行われている事実を知る人はまだ多くありません。20年前、象の虐待にタイ人で初めて異論を唱えたのが動物保護活動家サンドゥアン“レック”チャイラートでした。
本作「声なきものたち」の舞台は北タイの山と川に囲まれた広大な2つの象の保護観光施設。主人公は象を保護するエコツーリズムを20年間実践し、タイの観光を変革し続けている前述のレック。もう一人の主人公は亡父が残した55頭の象を受け継ぎ、大学を中退してレックに師事しながら象の保護観光に悪戦苦闘する22歳のニュー。
象は人間中心の社会で搾取されてきた「声なき動物」のシンボルで、経済発展とともに失われゆくタイの森も「声なき自然」として描かれます。それを守ろうとするレックは「声なきものたち」の代弁者で、ニューは象を相手に試行錯誤し、困難にぶつかりもがくZ世代として登場します。
象との絆を通して「生と死の意味」「いのちのつながり」を弟子ニューに伝えたい師匠レックの思い、ニューに対する彼女の期待と苛立ち、師匠の思いがわからないニュー、彼の奮闘と葛藤、象の死と誕生、人間の金銭欲に翻弄される象たち…。北タイの美しい自然を背景に「いのち」を守ろうとする師匠と弟子と象たちのドラマが劇映画を見るように次々と展開されます。