日本の漆芸を取り巻く環境は今、非常に大きな危機に瀕しています。能登半島地震以前から深刻化していた技や文化の継承の問題は、地震によって、いまだ被害の全貌さえ見えないほどのダメージを受けてしまいました。
私たちはかねてより、「漆」をテーマにした新作の「能」の制作、および、上演を企画してきました。その目的は、能登半島の漆芸文化を「記憶」と「技」の両面で次の世代へ継承することにあります。
『源氏物語』や和歌が、能の台本である「謡(うたい)」に収録されることによって長く継承されてきたように、能登半島の漆芸文化を「能」にすることによって、後世にまで「記憶」として伝えたい。また、関連する漆芸作品の制作を通して、苦境に立つ漆芸職人たちを直接的に支援したいと考えています。
輪島を中心とする能登半島の漆芸文化の復興、および、継承には途方もない時間がかかります。皆様方のご支援を心よりお待ち申し上げます。
プロジェクトに寄せて
彬子女王
一般社団法人 心游舎総裁
能登半島地震復興祈念「漆能」発起人代表
私たちは現在能登半島地震復興を祈る「漆」をテーマにした新作能を企画しています。そもそも本企画は2年前に、漆、および、漆芸を取り巻く環境に危機を覚えていた有志一同によって企画され、本年いよいよ舞台化に取り組む予定でおりました。その矢先、2024年1月1日に石川県・能登半島を大地震が襲いました。
この地震によって輪島を中心とする能登半島の漆文化は壊滅的な被害を受けました。文化の根幹をなす職人の方々の中には、震災で命を亡くされた方、家族、友人、大切な方々を失われた方もいらっしゃいます。今なお多くの地では、水道、ガス、電気、道路など、ライフラインの復旧に時間を要し、大勢の方が仮設住宅で苦しい生活を、住み慣れた故郷を離れ慣れない町で慣れない生活を送っていらっしゃいます。
いまだ能登半島における被災の全貌が見えない中で、はたして生活に直結しない文化・芸術に関する企画を進めてよいのだろうか、私たちは地震発生以来逡巡しておりました。
ですが、どのような状況にあっても、文化や芸術は、私たちの日常を、心を豊かにしてくれる希望の光です。芸術文化は、困難に直面している人々、絶望に打ちひしがれている人々の心を、少なくともそれにふれている時間だけは解放し、自由の時間を与えてくれるかけがえのない存在です。
能登半島の厳しくも美しい自然に育まれ、ここに暮らす名もなき職人たちが忍耐強く育てた漆の文化。今回の地震によって失われようとしている輪島を中心とする能登半島の漆の文化は、私たち日本人にとって何物にも代えがたい宝物なのです。
能は祈りの芸能です。
被災した方々に、能登半島の漆に関わっているすべての人々に、寄り添い、復興を祈念して能を捧げたい。また、被災された方々、この豊かな漆の文化を担っている職人の方々に直接支援をお届けしたい。そのような考えから、一度は中断した「漆能」を能登半島地震復興祈念能として取り組むことを決意しました。
ご支援いただきました浄財はすべて、漆能の制作、および、奉納、漆芸作品の制作を通しての漆芸職人の支援、漆芸文化を次世代に伝えるための活動に使わせていただきます。
どうぞ皆様方のご支援、お力添えをいただければと存じます。